顔の展覧会と「おかあさんといっしょ」- 個性あふれるキャラクターたちの世界
Michael Hansen
Published Aug 15, 2026
顔の展覧会と「おかあさんといっしょ」- 個性あふれるキャラクターたちの世界
「おかあさんといっしょ」といえば、日本中の子どもたちが画面の前で踊り、歌い、笑ってきた番組だ。NHKで1959年(昭和34年)10月5日から放送されているこの2歳から4歳児向けの教育・音楽番組は、日本のテレビ放送黎明期から続いている長寿番組でもある。その60年以上の歴史の中で、番組はただ歌うだけでなく、子どもたちの「顔」すなわち個性や表情、感情の多様性を豊かに描き続けてきた。そのひとつの象徴とも言えるのが、「顔の展覧会」というコンセプトだ。様々な個性を持つキャラクターたちを通して、笑顔、泣き顔、怒り顔、怖い顔、全部ひっくるめてその子らしさを肯定する。それが「おかあさんといっしょ」という番組の根っこにある思想である。
「おかあさんといっしょ」とは - 長寿番組の底力
「おかあさんといっしょ」は2歳ごろから楽しめる教育エンターテインメント番組で、歌・体操・人形劇・アニメなど楽しいコーナーがいっぱいあり、幼児の情緒や表現、言葉や身体の成長を応援している。ただ見るだけの番組じゃない。子どもが自然と体を動かし、声を出したくなる。そういう設計が長年にわたって磨かれてきた。
略称は「おかいつ」。新聞テレビ欄などでは字数制限の都合上「お母さんといっしょ」などと表記される場合があるが、本来は「おかあさんといっしょ」とすべて平仮名で表記するのが正しい。そんな細かいこだわりにも、番組への深い愛情が垣間見える。
「顔の展覧会」とはどういう意味か
「顔の展覧会」という表現は、「おかあさんといっしょ」に登場する多種多様なキャラクターたちの顔、つまり個性の集まりを指す言葉として親子の間で自然に使われてきた。番組に出てくる子どもたちのキャラクター一人ひとりが、まるで展覧会に並ぶ絵のように、それぞれ全く違う表情と性格を持っている。泣き虫がいて、怒りんぼがいて、わがままがいて、おとなしい子がいて。そのすべてが「ある」ことを、番組は否定しない。
そのコンセプトを最も鮮やかに体現しているのが、人気コーナーアニメ「こんなこいるかな」だ。『こんなこいるかな』はNHKの幼児向け番組『おかあさんといっしょ』のコーナーアニメで、1986年9月1日から1991年3月まで放送された。NHKの幼児キャラクターで最大のヒットとなり、絵本は累計1000万部を超えた。それほどの規模で愛されたアニメが、なぜここまで子どもと親の心を掴んだのか。答えはシンプルで、「どの子も主役」というメッセージにある。
「こんなこいるかな」- 個性と顔の百貨店
「こんなこいるかな」はNHK Eテレ「おかあさんといっしょ」で放送されたアニメで、いやだいやだの「やだもん」、こわがりやの「ぶるる」など、作品に登場する12人のキャラクターたちはみんなとても自由で、幸せそうで、個性的。ひとりひとりの個性を大切にし、ちがいを認め合い、受け入れる心を育んでほしいという願いを込めて作られた。
キャラクターを一人ひとり見ていくと、まさに顔の展覧会そのものだ。「やだもん」はサボテンのようなイガグリ頭と体型で、顔にそばかすがある。「ぶるる」はナスのような頭をしていて、ウサギのぬいぐるみをたまに持っている。怖がりな性格で、たびたび他のキャラクターからいたずらされてしまうことも。「たずら」は鼻にバツ印のように絆創膏を貼り、おもちゃの鉄砲や水鉄砲などを持ち歩いている。「ぽっけ」は青い野球帽をかぶり、常に顔を赤らめているキャラクターで、よく用件や持ち物をすぐ忘れてしまう性格。「もぐもぐ」は栗の実のような頭をしていて、食べることが大好き。
こうして並べると、まるで子ども時代のあるある集だ。誰でも「自分はあのキャラクターだ」と思える瞬間がある。それが「こんなこいるかな」の強さで、同時に「おかあさんといっしょ」の「顔の展覧会」が持つ力でもある。
作者・有賀忍が込めたメッセージ
この「顔の展覧会」を作り上げた人物が、絵本作家の有賀忍だ。「こんなこいるかな」で表現したかったのは、子どものあるがままの姿。人は皆、顔や体、性格が違うのは当たり前で、「いろんな人がいるからこそ楽しい」ということを子どもたちに知ってもらいたかったのです。そして、大人たちには「子どものあるがままの姿」をもっと認めてあげてほしいという願いを込めた。
親への問いかけでもある。子どもを型にはめようとしてしまう大人への、静かだが鋭い指摘だ。小さな子どもたちがこのキャラクターたちに親しむことによって、世の中には自分以外にいろいろな性格を持った人がいること、どんな性格の人にも良いところがあることを無理なく理解してほしいと考えられている。テレビの前で笑いながら、子どもは自然にそのことを学んでいく。
40年ぶりの復活 - 新世代の「顔の展覧会」へ
時が流れた。かつて「やだもん」に笑っていた子どもたちが、今は自分の子どもと一緒に画面を見る時代になった。そして2026年、その再会が現実になった。
「こんなこいるかな」は1986年から5年間にわたり「おかあさんといっしょ」で放送されたショートアニメで、個性あふれる12人のキャラクターたちの日常をユーモラスに描き、多くの子どもたちに親しまれてきた。関連絵本シリーズは累計1,000万部を超える大ヒットとなり、当時作品に親しんだ子どもたちは、今や親の世代となっている。
2026年3月30日から35年ぶりに再アニメ化された。しかも、2026年度よりおかあさんといっしょでは、アニメ「こんなこいるかな」が復活することが決定した。当時の子どもたちにとっては懐かしの再会であり、新しい子どもたちにとっては初めての出会いだ。世代を超えて「顔の展覧会」は続いていく。
「おかあさんといっしょ」の展覧会 - 実際に足を運べるイベント
「顔の展覧会」というコンセプトは、アニメや絵本の世界だけにとどまらない。実際に美術館や展示施設でも、子どもと親が一緒に体験できるイベントとして形になってきた。
SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ映像ミュージアム(川口市)では、企画展「美術セットでみるおかあさんといっしょの魔法のタネ」が2025年4月22日から9月28日まで開催された。実際に使われていた本物の美術セットを展示し、見て、触れて、楽しんでいただきながら、美術セットに込められた「作り手の想いや創意工夫(魔法のタネ)」を感じるという内容だった。子どもだけでなく、親世代も「あのセットはこうやって作られていたのか」と驚きの連続だったはずだ。
こうした展覧会が生まれる背景には、「おかあさんといっしょ」という番組が単なるテレビ番組を超えた文化的存在であることがある。「こんなこいるかな」の世界をシャドーボックスで表現する展示会も開催されており、シャドーボックスとは紙の彫刻と呼ばれるペーパークラフトで、厚紙のイラストを1枚ごとに違った切り口でカットし、高さをつけながら重ねていくことで、絵が飛び出しているような立体感が生まれる。平面の絵本キャラクターが空間の中で息を吹き返す。まさに顔の展覧会が、立体の展覧会になる瞬間だ。
親子で楽しむスペシャルステージ - ライブ版「顔の展覧会」
展示だけではない。「おかあさんといっしょ」は毎年、大規模なライブイベントも開催している。「おかあさんといっしょスペシャルステージ2026」が横浜アリーナでの開催として決定した。舞台の上でお兄さんとお姉さんが歌い踊り、会場にいる子どもたちが一緒に声を出す。画面の向こうにいたキャラクターたちが目の前に現れる体験は、子どもにとって強烈なリアリティを持つ。
スペシャルステージは、ある意味でライブ版「顔の展覧会」とも言える。会場に集まる何千人もの子どもたちの顔が、全部違う。泣いている子、全力で踊っている子、ただ固まって見ている子。そのすべての顔が、ここにいていい。番組が長年伝え続けてきたメッセージが、会場全体に広がる瞬間だ。
「おかあさんといっしょ」が育てるもの
「おかあさんといっしょ」の「顔の展覧会」が伝えるのは、単純に見えて実は深いメッセージだ。「こんなこいるかな」は、ひとりひとりの個性を大切にし、違いを認め合い、受け入れる心を育んでほしいという願いを込めて制作された作品で、誰もがそれぞれに良いところ、愛すべきところを持っている、というメッセージをあたたかいユーモアとともに届けている。
それは子どもへのメッセージであると同時に、親へのメッセージでもある。毎朝子どもと一緒に番組を見ながら、実は親も「比べない」「型にはめない」ということを少しずつ学んでいく。そういう番組が60年以上続いてきたのは、偶然ではない。
「こんなこいるかな」はその子一人一人を大事にする、肯定のお話しだ。全ての子が輝く。「その他大勢」はいない。12人全員が主役だ。これほどはっきりと、これほど温かく、多様性を肯定した言葉は珍しい。特に今の時代、この言葉の重さはひとしおだ。
「顔の展覧会」を体験するために - まとめと活用ガイド
「おかあさんといっしょ」の「顔の展覧会」を楽しむ方法は複数ある。NHK Eテレで毎週放送されている番組をリアルタイムで視聴するのはもちろん、NHKの公式サービスを通じたオンライン視聴も選択肢のひとつだ。また、スペシャルステージや企画展などの現地イベントに足を運ぶことで、テレビの中だけでは味わえないリアルな体験ができる。
絵本という選択肢も見逃せない。「こんなこいるかな」の原作絵本は、やだもん、ぶるる、たずら、ぽっけ、もぐもぐなど12人のキャラクターが大活躍するシリーズとして出版されている。テレビで気に入ったキャラクターの絵本を手に取れば、親子の会話が広がる。「どのこが好き?」「なんで好きなの?」そんな問いかけから、子ども自身の「顔」が見えてくる。
「おかあさんといっしょ」が作り続けてきた「顔の展覧会」は、画面の前でも、美術館でも、コンサートホールでも、そして家庭の本棚でも開かれている。どこから入っても、必ず「あなたはあなたのままでいい」というメッセージに辿り着く。それがこの番組の、揺るぎない強さだ。